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特集 今、組織にとっての環境的課題とは


 2015年9月に国連サミットで採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)、そして同年12月には、すべての国が気候変動問題の責任を負う「パリ協定」が採択され、持続可能な世界へ向けた取り組みが大きな一歩を踏み出しました。
 今月の特集は、SDGsや気候変動問題をサポートするため、ISO14001にどう取り組むか、組織の皆さまの手がかりとなるよう、今回のISO14001の改正にあたって、ISO国際委員会に日本代表委員として参加された吉田敬史氏に、お話を伺いました。

 
▶SDGsとは
SDGs(エスディージーズ):SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
2015年9月、国連サミットにおいて全会一致で採択され、翌2016年1月1日に発効。「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ(論点)」は、2030年までに国際社会が協力して達成する17の開発課題「持続可能な開発目標=SDGs」と、何を具体的に行うかについての169のターゲットとしてまとめられた。気候変動や自然破壊など環境課題への対策も含まれ、国や地域を超え、さまざまな企業や組織、自治体などが連携した活動が動き出している。

 
▶パリ協定とは
2015年12月、パリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP21)で採択され、翌2016年11月4日に発効。気候変動問題をすべての国が責任を負い、豊かな地球環境と限りある資源を次世代に継承していくための国際協定。世界の気温上昇を産業革命(18世紀後半)前と比べて、2℃未満に抑えることが目標として明記された。わが国でも、2030年までにCO2など温室効果ガスの排出量26 %削減を目標に掲げ、環境省は、対策を総動員して目標に向かう計画である。

 
▶CSVとは
CSV:Creating Shared Value
「共有価値創造」と訳され、事業活動を通じて、社会問題や社会課題の解決に貢献することで、社会的価値や企業価値を同時に高めていこうとする経営戦略。企業がビジネスモデルを見直し、収益性を確保しながらも社会価値を生みだしていこうとする考え方。CSRの発展形と呼ばれることもある。

ISO14001:2015の枠組みで、SDGsをどうサポートできるか?

 ISO14001はSDGsや地球温暖化防止に貢献できるという、合意を得た内容がISOのオフィシャルサイトにアップされていますが、例えばSDGsの場合、国レベルでも、17のゴールと169のターゲットという具体的な行動にどうやって取り組むか、大変なことです。国として、貧困をなくすとか、格差を是正するとか、一朝一夕には解決できない問題を、一企業が取り組むのはかなり難しい。流行り言葉で終わってしまうことを危惧しています。
 2017年6月にISO/TC207(環境マネジメント)の総会がカナダで開かれましたが、SDGsの17のゴールの内、8つが、ISO14001とリンクしています。社会とか人権などに近いゴール4つも、環境に近い。つまり、17のゴールの内、12はISO14001に関係している、という説明がありました。また、17のゴールからブレイクダウンした169のターゲットくらいのレベルになると、自社が関係するのかしないのか分かりやすくなります。上位の17のゴールのままだと、日本国も大企業もなかなか困難な課題ばかりです。169のブレイクダウンした内容で、自社がどう取り組めるかリストアップし、2個でも3個でも出てきたら、さらにブレイクダウンしてみてください。
 ISO14001:2015の要求事項「4.1組織及びその状況の理解」に「外部及び内部の課題を決定」という一文がありますが、SDGsも外部の課題の1つなわけです。リストアップしたターゲットを自社の事業のなかにマッピングし、経営者層が考える方向と自社が抱える問題の接点が見つかったら、ブレイクダウンして取り組んでいく。こうした一連の工程は必要だと思います。
 SDGsは、政府だけではなく、広く産業界や一般市民まで、それぞれにできることがあり、パートナーシップなどが強調されているので、持続可能な開発に貢献するには何がいいのか、リストとしては、使いやすいと思います。ただし、SDGsはこれまでのISO26000(組織の社会的責任に関する国際規格)などの内容を組み替えたものです。それを分かりやすく踏み込んだものになっています。ISO26000は、経済や社会、労働など7つの切り口で構成されていますが、SDGsは括り直している。経営者がSDGsに関心があるなら、きちんと理解するために、担当者に、「SDGsとISO26001とGRI(サスティナビリティ報告書を作成する際のガイドライン)がどうつながっているのか、それらと自社の事業のつながりを整理してまとめてみなさい」と、指示したらどうでしょう。

最近よく耳にするCSVとは?

 CSVというのは、「共有価値創造」と訳されますが、ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授がはじめに提唱したもので、彼は当初から価値創造ということを言っています。バリューチェーンについても彼が言っていますね。社内でのつながりや社外のサプライチェーンも、すべてがつながっているわけで、自社の競争優位というのは、社内だけでできるものではなく、サプライヤーといっしょになって、競争優位に立つ。またお客様の価値を創造して、自社を選んでもらう。こういった外部の組織との協調、連携で、大きな価値を創造できるというのが、CSVの基本的な発想です。これは項目を並べたというより、アプローチ方法を定義したもので、SDGsなどとは少しニュアンスが違います。
 最近、環境問題もそうですが、1社でやれることは飽和しているので、国の方も、サプライヤーやディーラー、お客様などと、いっしょに取り組んでください、という方向になっています。端的なのは、物流改善です。物流は自社内でやれることはたかがしれているので、ロケーションやネットワークを見て、共同配送にシフトする流れになりつつあります。複数の企業が、物流ルートを共同で使う、というようなことです。お互いに効率化できますし、今ドライバーが不足するなど、物流に関するいろいろな問題が噴き出しています。解決には、物流事業者と荷主がいっしょになって解決していくことがCSVになります。CSVは新しいことでもなく、昔から行われてきたことで、名経営者というのは、自社だけどうやって儲けようか、とは考えない。お客様や社会のニーズとか、その時社会に欠けている視点で切り込むことで、価値を創造する。そこにCSVの原点があります。
 今度のISO14001の2015年版は、組織の状況や内外の課題を広く捉えて、今自社の立ち位置はどういうところにあって、世の中はどういう変化の状況にあって、そんな中で、自分は何をやれば、CSVになるのか。自社のメリット、財務的なメリットや取引先の評価など、何らかの目に見えるメリットを得ないと、取り組みというのは身になりません。何かできないか、経営者層は皆そう思っています。このまま10年、20年先も同じことをやっていて生き残れるとは思っていません。自社のためだけではなく、例えば周辺住民のためになるようなこと、今回のISO14001の改正が、考えるきっかけとなってほしい。それが規格をつくった私たちの共通の思いです。

ISO14001の改正、ルールが変わって何が変わる?

 世の中のルール、例えば法律や制度、そして社会的関心事など、これらは常に変化していて、最近はとくに変化が激しい。優秀な方々は変化を理解していますが、だめだなと思うのは、変化を理解できないだけではなく、見ようともしないことです。同じことがISO14001の担当者の方々にも言えます。仕事を変えたくない、同じことをやっていきたい、という方々がいらっしゃいます。「2004年版でもプラスの側面までやっていた訳ですから、このままではダメですか」とおっしゃいます。どう考えても、要求事項は明確に変わっていますので、理解していただきたいですね。審査員の方も、審査機関の方も、最低限の要求事項だけでも、きちんと正しく理解し審査してほしい。つくった側の祈るような心境です。
 最初から何か大きなことをやって大きな成果が得られる、というものではないとしても、考え方として、少し高い視点から、戦略的にISO14001に取り組むことが大事です。トップが指示しないと担当者レベルではできないということもありますから、トップは後押ししてあげてください。そうすれば徐々に良くなるはずです。そのレベルくらいまでは認識してほしいと思います。

環境への感度を高める

 せめて、審査員の方や、社内で環境のとりまとめをやっていらっしゃる方には、環境に対する感度を高めてほしいですね。私も、企業で環境に携わる方々へ研修などを行っていますが、ディスカッションもあり、双方向のコミュニケーションもあります。そうした研修にくる方は大企業だけではなく中小企業の方もいて、意識は高く、真面目な人が多い。それにも関わらず、現場で環境活動に取り組んでいる人として知っていなければいけないことでも、情報不足、勉強不足で、こんなネット時代で情報は溢れているのに、何を調べたらいいか分からない、また情報を引いてきても、それが自社にどう関わってくるのかが想像できない、そういうことがあります。審査員の方も同様ですが、日経新聞を1年間表題だけでも読んでいけば、どういうことが話題になっているか、最新のトレンドも含めて情報は入ってくる。一般紙でも、環境関連の記事は必ずあります。
 最近の新聞記事では、都営住宅に住んでいただけの人が、アスベストで中皮腫になってしまった、という話がありました。昭和20年代に建てられた住宅の解体のピークが2020年代にやってくる。建築業界は、そうした問題について、自社に関連はないだろうか?と、考えて、対策を立てるべきです。建設現場での熱中症対策なども同じこと。リスクです。現場をもっている業界にとっては脅威です。豪雨対策でも同じこと。ハザードマップを見れば、水害危険地域などもわかります。2015年販では網羅的に行いなさいとは書いていないので、自社に関わることをピックアップし、とりあえず取り組んでいけばいいのです。
 私が研修などで受ける質問の答えの7割くらいは、附属書Aに書いてあります。附属書Aは長いし、翻訳文なので、日本語としてみたら読みにくいところもありますが、答えがいっぱい詰まっています。私たち規格改正のメンバーが、要求事項と附属書Aについてディスカッションした時間は、附属書Aの方が長い。それだけ時間をかけた、ということです。アドバイスとして申し上げるなら、附属書Aを十分活用してください。

2015年版はトップマネジメントがカギ

 今回のISO14001:2015は、現場レベルではなく経営的視点が必要な訳です。
 4.1「組織及びその状況の理解」、4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」、6.1「リスク及び機会への取組み」が入ってきたということは、担当者レベルではなく、もう少し広い立場で見てどうすればいいのか考えて、ということで、そこを経営者がきちんと理解し、担当者に「環境マネジメントシステムの成果についてのリスク及び機会への取り組みなどは、きちんと考えたのか」と問いただしてみることも重要です。そういうことが積み重なっていくのがいいのだと思います。環境は大所高所で取り組まなければいけないし、経営者の戦略が生きるのが環境マネジメントシステムなのだと思います。
 また、トップと現場担当者だけではなく、中間層もリーダーシップを発揮してもらわないとだめですね。これも重要です。課長とか部長とかに「これは何とかならないのか」と言う人がいないと、結構取り組みが止まってしまう。だからトップの中間管理層への支援も重要なのです。これも要求事項に書かれていることです。序文の0.3にも「環境マネジメントシステムの成功は、トップマネジメントが主導する、組織の全ての階層及び機能からのコミットメントのいかんにかかっている。」と書かれていますから。それがなかったら成功しない、ということです。

ISO14001を通して地球温暖化対策にどう取り組む?

 パリ協定にある温暖化への「適応策」と「緩和策」というのは、環境と組織を双方向で考えていくもので、これはパリ協定だけではなく、ISO14001:2015にもある共通の概念です。温室効果ガス排出についての理解、温暖化を抑制する「緩和策」、温暖化への「適応策」、これら全体をどう構造化してとらえるか、PDCAのPLANから入っていきます。このPLANのところができれば、あとはスムーズです。
 PDCAについて言えば、SDGsの場合、まずSDGsを理解し → 優先課題を決定し → 目標を設定し → 経営へ統合し → 報告とコミュニケーションを行う。このように、すべてがPDCAです。大事なのは、中身を理解して自社にとっての優先課題を決めること。なにもかもやろうとするのではなく、外部の課題・内部の課題、リスクと機会もそうですが、すべてやろうとしてもできない。経営資源には制約がありますから、自社にとってどれとどれが大事なのか、優先課題を抽出して、あとは目標を作り、指標を出していってください。基本的にPDCAの後ろの方は、何でも同じです。

最後に

 ISO14001の枠組みで環境課題に取り組んでいると、規格の要求事項にとらわれ、ディテールの話にいきがちです。しかし、細かいことより、ビジネスや経営的な発想で、予算の稟議を経てから、皆さん活動しますよね。役員に部門の予算申請するとき、環境マネジメントシステムをどうやって説明するか、承認されなければ活動できないわけで、なにもかもやろうとしては、無理が出ます。今年はこれ、というように優先順位を決定しないと、経営資源の範囲内でやるわけですから、承認は降りない。その辺を間違わないようにしないとだめです。それだけの話です。役員や社長に説明するときも必要なエビデンスをきちんと用意して、実証しないとうまくいかない。説明責任は、相手が納得できることが目的ですから。株主総会での説明も、社長がやるわけですが、これもエビデンスが必要です。ISO14001もISO9001と同様、取引先に一番納得してもらわなければいけません。購入者(お客様)のための規格ですから、購入者に納得してもらえるよう説明責任を果たすことがすべてです。

吉田敬史氏  プロフィール
1972年三菱電機株式会社に入社。1991年同社において環境保護推進部を立ち上げ、2004年に環境推進本部長。また、環境マネジメントシステムの日本国内導入に尽力。同社退職後、合同会社グリーンフューチャーズを設立。環境経営に関する調査・研究・出版・コンサルティング・教育・普及啓発など、各種支援業務を行う。ISO/TC207/SC1(ISO14001)前日本代表委員、同国内委員会委員(前委員長)、ISO/TC176(ISO9001)およびISO/TC207/SC7(気候変動)対応国内委員会委員。1999年工業標準化事業功労者通商産業大臣賞受賞。

☆ この件のお問い合わせは、
一般財団法人ベターリビング システム審査登録センター
企画管理部企画課 山賀までご連絡ください。
( Tel. 03-5211-0603 )