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特集 ISOマネジメントシステムとマーケティング4.0


2017年より、フィリップ・コトラーが提唱しているマーケティングにおける最新理論「マーケティング4.0」。新しいマーケティング時代に対応するために、組織は経営のあり方を見つめ直す必要があると説いています。
今月の特集は、マーケティング1.0から3.0を踏まえて、マーケティング4.0の本質やISOマネジメントシステムとの関連性について紹介し、認証を取得している組織の皆様へマーケティング4.0の考え方をどのように取り入れていくべきかを、首都大学東京大学院の准教授である水越康介氏に、お話を伺いました。

マーケティング1.0?4.0までの概要

そもそもマーケティングとは

 我々が「マーケティング」と聞いて、まずイメージするのは「顧客の必要に応える」という考え方だと思われます。顧客を起点に、ビジネス展開を考えていくこと。これは60年代くらいから一般化してきた考え方で、マーケティング理論でいうと、マーケティング2.0に当たる考えです。
その前の段階の、マーケティング1.0における考え方としては「質の高いモノを提供すること」を重視していました。安くて良いものが売れることを前提に、品質を高めることに重きを置く。実際に、そうした考えで顧客の期待に応えられていた時代もありました。これは、昔の品質マネジメントシステム規格内容と近い部分があると思われます。
 しかし、質を重視して製造することで生まれた問題は、つくり過ぎて、製品が余ってしまうということです。そうした問題が生まれたことで、組織は売り方を考えなければならなくなりました。そして、それが過剰になると、「売りつける」という問題が生じてしまったのです。そこから、まずは顧客が求めているものは何かを考えて製造し、またサービスを提供すべきだという考え(マーケティング2.0)に至りました。
マーケティングがこれまで発展してきた背景には、顧客が求めているモノを確認し、理解する。そして、それに対応する製品・サービスを提供していくという流れがあったといえます。
 マーケティング2.0が一般化する中で具体的なツールも確立されました。例えば、セグメンテーション。つまり、顧客が誰であるかを特定することが必須となります。特に消費財について言うと、元々行ってきた販売施策と、4P(製品-Product、価格-Price、流通-Place、販促-Promotion)をどのように組み合わせるのかなど、マーケティングミックスによる具体的なツールが定められてきたのです。
次にマーケティング3.0についてですが、マーケティング2.0で目的としていた「顧客の期待に応える」から、時代を経て、個人の顧客だけではなく社会など顧客よりも広いステークホルダーの方々を対象とするようになったのです。
社会全体の期待に応えることが求められる考えから、組織は顧客だけではなく、株主や取引先はもちろん、組織内の従業員もマーケティングの対象となりました。まさに、ISOマネジメントシステムでいう「利害関係者のニーズ及び期待の理解」になります。社会が必要としている製品・サービスに応えていくことが重要であり、それが結果的に顧客が求めているものに応える形となる。これがマーケティング3.0の考え方です。


デジタル化の急速な広がりによる変化


 マーケティング4.0の考えは根本的にはマーケティング3.0から変化せず、マーケティング3.0の延長線上にあるものがマーケティング4.0といえます。ただ、マーケティング4.0では「デジタル状況が急速に広まった」点が、マーケティング3.0に比べて強調されています。
 デジタル化が社会において急速に広がったことで、マーケティング4.0では、マーケティング3.0よりも、具体的にデジタルをどのように利用していくのか、そしてそれはマーケティングにどのように影響するのかが議論されています。
 例えば、いわれているのは「シェアリングエコノミー」です。情報を共有するなどのネットワークが生まれたのは、デジタルの発展があったからこそです。また、デジタルが発展したことで「カスタマージャーニー」がより明確になったと言えます。カスタマージャーニーとは、顧客が日々どのように生活して、どのように行動して、製品購入に至るのか、そのプロセスのことを指します。これがインターネット上などで、従来よりも明確に捉えることができるようになりました。それを前提として、組織が5A(Awareness-認知、Appeal-訴求、Ask-調査、Act-行動、Advocacy-推奨)に従ってマーケティングを考えるという流れが生まれています。顧客が今どの段階にあるのか、次の段階に移行させるためにはどうすれば良いのか。具体的な方法として5つの段階を想定して、それぞれ顧客との接点を作っていくやり方を示していると考えられます。


コネクテッドカスタマーを持つこと


 5Aにある「推奨」とは、顧客がモノを購入した後、顧客が満足しロイヤリティを高めるということです。具体例としては「口コミ」が1つ挙げられます。口コミによって推奨意向が高まり、成果として顧客からより広がっていくのです。つまり、「コネクテッドカスタマー」といえる顧客像を持つことが組織には求められます。そのために、組織が意識しなければならないことは、製品・サービスをリリースした後のアフターマーケットです。これは、80年代くらいに生まれた考えではあるのですが、現在でもますます重視されています。顧客と継続した関係性を築いていくこと。これこそが、組織にとって生涯価値になると言えます。
 これは、ISO品質マネジメントシステムでの「顧客満足度の向上」にリンクしてくるといえます。購入者で終わるのではなく、推薦者として広めてもらうということです。
 さらに、マーケティング4.0では組織は顧客に対して良い製品やサービスだけに限らず「驚き」を与える、つまり顧客の想像を超える製品やサービスを提供する必要があるとされています。具体例として挙げられるのは、マーケティング4.0の書籍でも紹介されているYoutube(https://m.youtube.com/watch?v=7Ax2CsVbrX0)上の動画です。多くの人がその動画を見て、「すごい!」と感じたとき、それに対して多くの人がインターネット上に書き込みをし、その結果、顧客のコミュニティがさらに広がっていくのです。これまで、組織がコミュニティを構築するとしても、その規模は小さなものでした。しかし、デジタル化によってその規模はずっと大きくなり、世界中の人々が対象となりました。


消費者と組織が密着した関係


 マーケティング4.0における5Aを実行していくにあたって役立つツールとして、改めてマーケティングミックスの考え方も重要となります。その一つとして「消費者参加型の製品開発」があります。これまで、製品やサービスを受け取るだけだった立場の消費者は、インターネットやソーシャルメディアの発展に伴って、自ら情報を発信し、相互に情報を共有し、製品やサービスを評価するようになりました。
 従来、組織が中心となって製品を開発してきましたが、今日では、それだけでは不十分です。なぜなら、消費者の声が、販売促進の役割を果たし、製品開発にまで影響を与えて、新たな製品が生まれることもあるからです。消費者と組織との距離が近くなり、密接な関係となっていることが、これからのビジネスの前提になります。そのため組織は、消費者と協働し、製品やサービスの価値を作り出していくことが今後のマーケティングで重要なポイントとなります。
 ISO9001:2015品質マネジメントシステムでは、プラニングに当たる「8.3.2 設計・開発の計画」で設計・開発の段階及び管理を決定するに当たって、組織が考慮すべき事項の一つに「 g)設計・開発プロセスへの顧客及びユーザの参画の必要性」と記載されています。
 こうした点から、ISOマネジメントシステムは、マーケティングにおいて組織が持つべき考えや視点も網羅されているといえるでしょう。


最後に


 海外と比較すると、やはりマーケティングという点において日本は遅れている部分があると思われます。マーケティング3.0以降、組織は顧客ではなく社会を見据える必要があるといわれてきました。海外では社会的な活動に取り組んでいる組織が非常に評価されています。一方、日本では社会的な活動となるとCSR活動などがあると思いますが、海外に比べてその社会的価値は低いと感じられます。もちろん、社会の問題を解決するために活動し、マーケティング4.0に対応した形でビジネスを展開している組織は日本でも増えてきています。
 しかし、「カスタマーファースト」、つまり、顧客第一主義という考えが長い間組織の中で提唱されてきたためか、目の前の顧客だけに注目してしまい、なかなかその先にある社会を見据えるまでに至っていない組織もあります。顧客を重視するという考えは、当然大切ではあります。しかし、そこにだけ焦点を当てるのではなく、社会全体を見据えなければなりません。その方法として、デジタルを活用していく必要があるのです。

水越康介氏  プロフィール
2005年 神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。 その後、首都大学東京 都市教養学部経営学系で研究員を経て、現在、首都大学東京大学院社会科学研究科准教授を務める。主要著書は、『ビジネス三國志 マーケティングに活かす複合競争分析』(共著)プレジデント社、2009年。『Q&A マーケティングの基本50』日本経済新聞社、2010年。 『マーケティングをつかむ』(共著)有斐閣、2012年など。

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